タイトル:
Locomotor imagery training improves gait performance in people with chronic hemiparetic stroke: a controlled clinical trial
著者名:
Hwang S, Jeon HS, Kwon OY, Cho SH, You SH
雑誌名:
Clinical Rehabilitation. 2010; 24: 514-522.
ポイント
1) 歩行に特化した運動イメージトレーニングが,脳卒中患者の歩行能力を改善させるかどうかを調べた.
2) 運動イメージ介入群は対照群と比較して,歩行の運動学的パラメーターと臨床評価指標に有意な改善を認めた.
3) 歩行に特化した運動イメージトレーニングは,歩行トレーニングの実施が困難な脳卒中患者のための有用な介入手段となる可能性が示された.
運動イメージトレーニングとは
運動イメージトレーニングとは,実際の身体的運動を伴わず頭の中で繰り返し運動を想起する方法である.運動をイメージしている際は,運動の企画・計画を行う運動関連領野が実際に運動を行なった時と等価的に賦活することが明らかとされており,リハビリテーションにおける運動学習の介入手段として注目されている.脳卒中患者に対する運動イメージトレーニングの効果を調査した先行研究では,上肢運動障害を改善させることが報告されており,科学的根拠も明確になりつつある.
これまで,運動イメージトレーニングは脳卒中患者の上肢運動障害に広く用いられてきたが,近年では歩行に特化した運動イメージトレーニングが開発されている.先行研究では,歩行に特化した運動イメージトレーニングは脳卒中患者の歩行能力を有意に改善させることを報告している.しかしながら,歩行に特化した運動イメージトレーニングに関する報告は限定的であり,歩行中の下肢機能障害に対する効果は明確とされていないのが現状である.
本論文の目的
歩行に特化した運動イメージトレーニングが,歩行の時空間パラメーターや運動学的パラメーター,臨床評価指標を改善するかどうかを調査することを目的とした.また,本研究では,運動イメージ介入群は対照群と比較して,介入後の歩行能力に違いを認めると仮説を立てた.
方法
対象:
脳卒中片麻痺患者24名(運動イメージ介入群13名,対照群11名)
運動イメージ群に対する介入方法:
運動イメージ介入群は,週5回,4週間のトレーニングセッションに参加した.運動イメージのために2種類の歩行に関する動画が用いられた.1本目の動画は,健常成人男性が10mの歩行路を歩いている様子を前額面,矢状面,水平面から撮影されたものであった.動画の前半はゆっくりとした歩行速度で,後半は通常の歩行速度で歩いている様子が流された.2本目の動画は,それぞれの患者が快適な歩行速度で歩いている様子を前額面,矢状面,水平面から撮影されたものであった.最初の週はトレーニング前の自身の歩行と健常成人の歩行パフォーマンスの違いを調べ理解することに焦点化された.残りの3週間は5段階の運動イメージプロトコルに沿って行われた.一方,コントロール群は健康に関連したテレビ番組を視聴するよう命じられた.
評価項目:
・歩行の時空間パラメーター
ケイデンス,ステップ長,ステップ時間,ストライド長,ストライド時間,歩幅,歩行速度
・歩行の運動学的パラメーター
矢状面,前額面,矢状面における足関節,膝関節,股関節,骨盤の運動
・臨床評価指標
Activities-specific Balance Confidence Scale,Berg balance test,Dynamic gait index,modified Emory Functional Ambulation Profile
結果
歩行の時空間パラメーターについて,歩行速度,ストライド長は,運動イメージ群で有意な増加を認めた.その他に有意差は認めなかった.
歩行の運動学的パラメーターについて,麻痺側の股関節の屈曲-伸展,膝関節の伸展-屈曲の角度変化量は,運動イメージ群で有意な増加を認めた.非麻痺側の股関節の屈曲-伸展の角度変化量は,運動イメージ群で有意な減少を認めた.
臨床評価指標について,Activities-specific Balance Confidence Scale,Berg balance test,Dynamic gait index,modified Emory Functional Ambulation Profileは実験群で有意な改善を認めた.
臨床場面において,身体的な負荷を必要とする歩行訓練は,能力障害が顕著な症例や易疲労性を呈する症例には実用的ではない.そのため,歩行の運動イメージトレーニングを用いることで,重症度の高い脳卒中患者の歩行に対する介入機会を最大化することが可能になると考えられる.
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