短下肢装具の装着はトゥクリアランスに影響する?
タイトル:
The impact of ankle-foot orthoses on toe clearance strategy in hemiparetic: a cross-sectional study
著者名:
K Pongpipatpaiboon, M Mukaino, F Matsuda, K Ohtsuka, H Tanikawa, J Yamada, K Tsuchiyama, E Saitoh
雑誌名:
J Neuroeng Rehabil. 2018
ポイント
1) 三次元動作解析装置を用いて,短下肢装具の装着が,脳卒中後症例における歩行時のトゥクリアランスに及ぼす影響を分析した.
2) 短下肢装具を装着することで,トゥクリアランスは向上し,骨盤挙上による代償動作が軽減した.
脳卒中後症例の歩行障害
脳卒中後症例の多くは,下肢遊脚の制御に障害をきたしており,トゥクリアランスの低下はその一つである.このトゥクリアランスの低下には,遊脚期における股関節屈曲,膝関節屈曲,足関節背屈の低下が関与し,トゥクリアランスが低下することによって歩行時に躓きが生じやすくなり,その結果転倒リスクが増加する.
健常者では,トゥクリアランスは下肢の短縮(股関節屈曲―膝関節屈曲―足関節背屈)によって得られる.一方で,脳卒中後症例では下肢の短縮が困難となるがゆえ,骨盤挙上や下肢ぶん回しなどによる代償動作によってトゥクリアランスが確保されることとなる.
このように,トゥクリアランスに対する下肢の短縮と代償動作はトレードオフの関係にあると想定される.
脳卒中後症例における短下肢装具の役割
短下肢装具を装着することによって,脳卒中後症例の麻痺側足関節の運動を制動することで,歩行能力の向上が期待される.中でも,遊脚期で足関節背屈位を保持することが可能となるため,トゥクリアランスを確保するための代償動作の軽減や,実質的なトゥクリアランスの向上に貢献すると考えられる.実際に,先行研究では,歩行時の足関節背屈低下に伴う骨盤挙上が,短下肢装具の装着によって軽減したことが明らかとされている.
本論文の目的
短下肢装具の運動学的効果について,その詳細は不明な点が多い.本研究では,短下肢装具の装着が遊脚期の下肢運動パターンに及ぼす影響を明らかにすることである.
方法
症例
脳卒中患者24名
歩行解析
使用機器:三次元動作解析装置KinemaTracer
歩行条件:①短下肢装具装着条件と②短下肢装具非装着条件
解析項目:トゥクリアランスの指標として第5中足骨頭の挙上距離と下肢短縮距離(股関節―第5中足骨)を,代償動作の指標として骨盤挙上距離,下肢ぶん回し距離を算出した.
結果
短下肢装具の装着によって,下肢短縮が促され,その結果としてトゥクリアランスの改善と代償動作の軽減が得られることが確認された.また,このような短下肢装具による影響は,病期や短下肢装具の種類に関わらず,一定の効果が得られることも明らかとなった.
このように,短下肢装具による歩行戦略の影響を定量化する試みは,脳卒中後症例の歩行障害に対する介入指針を立案する上で重要な知見になり得ると思われる.